前部主砲


第2砲塔の横から乗り込みます。
船らしくタラップでも良かったと思いますが、
高齢の人もいますから、
このような大掛かりな階段も致し方ないでしょう。
乗艦口はほぼ左舷二番主砲塔横に開いています。そこから、戦艦の木甲板上に降り立ちます。鋼鉄の戦艦に何で木甲板かと不思議に思える方もいらっしゃるでしょう。 戦艦の最上甲板もしくは上甲板は何処の国も木甲板になっています。ただし、艦首艦尾の錨の揚錨係留装置のある部分は滑り止めも兼ねて鋼鉄製にな っています。最上甲板もしくは上甲板は風雨に直接晒される所から通常露天甲板と言われていますが、ここに木甲板を使うのには理由があります。 まず第一に乗員の疲労を防ぎます。硬い鋼鉄製より柔らかい木の方が足も楽でしょう。豪華客船なんかが木甲板にしていることを考えれば当然です。 又水を吸いますので、甲板下面に湿気が溜まることも防ぎ、熱による甲板下の艦内の温度上昇も大分違ってきます。他にも足音が鋼鉄製の甲板を歩く より静かになり、甲板下の居住区に良い環境を与え(やはりウルサイと寝れないよね、アパートの上の住人の騒音に悩まされている人ならお分かりで しょう。)又、鋼板のたわみを防ぐことで、船体の強度にも良い影響を与えます。なれば上から降ってくる砲弾や爆弾にはどう対処するかという声が 挙がりますが、言ってしまえば、ここは壊れても良い場所なんです。

綺麗に敷き詰められた木甲板。
軍艦というのは本当に壊れたら戦闘能力を失うか沈んでしまうと言う所にしか 装甲は張っていません。主砲塔、司令塔、機関室、舷側の吃水線近くなどです。甲板は基本的に無装甲で、この最上甲板下の中甲板の等に比較的薄い (舷側装甲に比べて)装甲が成されているのです。しかも、中途半端な装甲を張るよりかは非装甲の方が被害が少ないというのもデーターとしてあり、 それによって、戦艦の上甲板は板張りでもOKな訳なのです。全体を分厚い装甲で覆うと、重くなって転覆してしまいますよ。 この木甲板の張り方は昔の帆船とあんまり変わりません。張り合わせた木板の継ぎ目には古麻ロープを解したモノを詰め、その上からピッチ(タールを溶かしたモノ)を流 し込んで水密を高めます。昔はトレンネルと言う木釘を使っていましたが、ミズーリの時代になるとさすがにボルトで、下の鋼板に取り付けます。し かし、そのボルトの上から木栓をしますので、見た目は木釘を使っている様にも見えないことはありません。日本海軍では木板にチーク、台湾檜、ア メリカ松とかを使っていましたが、アメリカはどうでしょう?所々に伸縮継手(エキスパンション・ジョイント)があります。これは波浪によるたわ みを防ぐ装置です。巨大な一枚板となる甲板ですので、この手の調節が必要なのです。


第二主砲塔、第一主砲塔を横目に見つつ、艦首の先まで行ってみましょう。揚錨係留装置であるケーブルホルダーや、アンカーチェーンがあります。 大きなハンドルが幾つか飛び出していますが、恐らくアンカーチェーンを巻き上げる時の調整に使うブレーキハンドルでしょう。残念ながら危険防 止のためか艦首旗竿のある最先端までは行けません。タイタニックごっこは無理なようです。

艦首部の諸設備です。
ケーブルホルダーやクリスマスツリーが
見られます。
その手前に巨大な洗濯物を干すたこ足の様な構造物が目に入りますが、 これは通称クリスマスツリーと言う短波用のアンテナタワーで、1986年の近代化改造のおりに設置されました。倒せる様な構 造になっていないので、艦首方面への射撃の時はどうするんでしょう?最も正艦首に向かって射撃することは殆ど無いでしょうが。

巨大なケーブルホルダーに
太い錨鎖が巻き上げられています。


さて艦首方面の見学が終わったら振り向いて、改めて、巨大な主砲塔とご対面しましょう。アイオワ級には406mm50口径主砲が三連装砲塔3基、 計9門搭載されています。戦艦の存在意義は何よりもこの巨大な砲を搭載していることにあります。33ntの高速で巨体を吹っ飛ばす高出力なエン ジンも、複雑、精緻な電子& 光学機器も、艦長以下2000名の乗員も、この主砲がいかに上手く働くかの為に奉仕しているのです。砲弾を運搬し、 詰め込み、より良い射撃位置を確保するために船を走らせ、正確に目標に当てるために測距する、戦艦と言う巨大な戦闘遂行マシンはこの主砲を中 心に構成されていると言っても過言ではありません。その主砲の艦首側にある6門を眺めて下さい。例え戦艦というモノに興味が無くとも、何か胸 打つモノがあるはずです。

巨大な主砲塔が載っていますが、
甲板はまだまだ余裕があります。
ライではここら辺でチャンバラしています。

主砲と艦橋、絵になります。
ズ〜ンと来ます。

もう一枚、艦橋と主砲。
50口径という長さは
列強の戦艦の中では極めて長砲身です。

砲塔の側壁に
朝鮮半島らしい図柄と289という数字が。
ミズーリは朝鮮戦争勃発時に唯一現役艦であり、
艦砲射撃で国連軍を援護していますから、
この数字はその時発射した
主砲弾の数でしょう。

砲身内部の煤を洗い出す洗浄桿が
無造作に転がっていました。


ここで残念なお知らせです、去年まではこの主砲、先に書いた様に水平に寝かされていました。艦首にシアがあるために見ようによっては俯角を掛 けている様に見えて迫力という点でマイナスであったのですが、手に取る位置に砲口があって、砲身の中を眺めると言うことが出来たのです。又、 元気があれば砲身に飛び乗って記念撮影も可能でしたが、今は恐らく最大仰角である30度に上げられ、今後も下げることはないだろうから、この 砲身の中身を覗ける人はこれからはいないでしょう。第1主砲塔の砲口には真鍮製(写真をよく見ると木製の様だが…)の砲口栓が、第2主砲塔には★マークの入った砲口カバーが更に その上から掛けられています。砲身基部には黒いキャンバス製の砲身口カバーが掛けられています。前年にはなかった仕上げです。

未だ砲身が寝かされていた一年前の主砲。
これはコレでサービスです。

今はこのように天高く、砲身を振り上げています。

隣の女性に比べてもその巨大さが分かります。
Mk7 50口径406o砲はMk8徹甲弾を
42000m彼方迄吹っ飛ばします。

砲口のアップ。
細かいライフリングが
螺旋状に続いているのが分かるでしょう。
何丈切ってあるのかは、
手元の資料では分かりませんでした。
同口径の日本海軍の砲は84丈です。

砲身口のキャンバス製カバーです。
やはりコレがないと締まりません。


ここまで綺麗に仕上げられた主砲塔ですが、残念ながら、未だ中身は見学できません。そんなに広い所ではありませんが、やはり興味深いモノな ので、今後是非公開してくれることを願います。



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