1998 GAO12月号
ライ 第103話


またまた、冒頭から例の原稿紛失時件について書かなきゃならないな。製作日記を読みたい人はしばらくご容赦を。

一寸まぁ、皆さん聞いて下さいよ。もう何と言っていいのかそれはそれはひどい有様でしたよ。何がって?メディアワークスの 原稿保管の状態。俺は聞いて気が遠くなりました。前回の日記にも書いたんだけど、そもそもこの会社、5年も前に一度大量に カラーも含む原稿を紛失してるんだよな。その時、俺は原稿管理システムがちゃんと出来るまでライ描かないって事で三ヶ月ほ ど休載したんだよ。現社長である当時の常務とか部長とかがワラワラやってきて平身低頭して謝り、確か800万円ぐらいの賠 償と(因みにこの額は、依然同じように無くされた作家さんの賠償を参考に、向こうから行って来た額で原稿料×10×枚数、 ただしカラーは二倍)担当部長の減給一割を半年という処分で一応の和解になったのだ。どうでもいいことだがこの頃は他の作 家さんでも同じトラブルがあり、何とかお願いして休載だけは勘弁して貰ったという、笑えないエピソードもあったりしたんだ よな。問題はだ、この処分、減給を食らった部長以外、個人的に痛みを伴った者が誰一人いないことだ。多額の賠償も(一年間 の分割払いだった。)それはあくまでも会社の金庫から出るのであって、誰の財布も傷まない。これじゃそれこそ事件は他人事 になっちゃうよな。この痛みを伴わない事後処理、これが第二次原稿紛失事件の最大要因となるわけだ。

この5年前の事件後、管理システムとやらをメディアワークスは作ったらしい。それは原稿の出し入れにやたらはんこを押しま くるというシステムだった。コミックスの準備として原稿を作者側に返却するときも担当編集のはんこと受け取りのはんこ、そ して中身を確認したはんこと色んな所にペッタンペッタン押すのだが、その押した書類は何故か回収されないのだ。今でもうち に残っている。はて?これはどーいうことだ?原稿出したら出しっぱなし?俺が原稿、手直しして返したら逆に編集部が確かに 戻りましたってはんこ押すんじゃないの?それとも行きと帰りで一つの原稿に二枚の書類があるの?まぁとにかく、このはんこ もその後2回足らずで自然消滅してしまったな。なんじゃ、こりゃ。そしていよいよ事件より一年後、第二次原稿紛失の原因そ のものになった愉快なシステムが発動する。コレはほんのつい最近判明した事実と合わせて、人間の無能ぶり職業意識の欠如 を如実に表すこととなる。ここで一人の男を紹介しょう。当時、ライの担当だったA川だ。伏せ字にしてやってるのは今現在、 メディアワークスにいないから。この男、編集としては最低ランクであり、スタジオかつ丼で無能小僧第一号として有名だ。か ろうじて写植が貼れるぐらいの才能しかなく、それこそ責任ということに関しては産まれながら持ち合わせていないんじゃない かとも思えるほどの男だった。以前から多くのトラブルを起こしてくれたが、ライのアニメがスタートした時辺りからオーバー フローしたらしく混乱の極みの惨状を呈していた。この男と新しい愉快なシステムが組み合わさったら原稿無くならない方がお かしいぐらいだ。では、その愉快なシステムについて話そう。原稿という物はなんだかんだと色々移動するものだ。予告に使っ たり、単行本に使ったりと一ヶ所に置いといても、出し入れが頻繁にある。そこでメディアワークスは出し入れに際しまたまた はんこを押すことにした。一見、コレなら責任の所在がはっきりするだろうと思われよう。なにせその書類を見れば、原稿が帰 ってきていなければ、当然、はんこが無く、すぐにでも気付くというわけだ。コレでどうして何年も原稿紛失に気付かなかった んだ。一目瞭然、はんこ押してないことは原稿が帰ってきてないことだろう、それがどうして何年も何年も不問にされてるんだ。 俺は今回の事件の報告に来た編集長に何気なく聞いてみた。「..で、その出納帳、誰が管理しているんです?」編集長の口か ら出た言葉は衝撃そのものだった。「いえ誰も、保管しているロッカーに扉の裏に貼ってあるんです。」だーっ!!なにそれ?管 理者いねーの!?これで何がシステムだよ。笑わすなよ。まぁ、要はさ、仕事増やしたくなかったんだろうね〜。一月に一回で も上の人間がチェックしとけば、事なきを得たかも知れないのによ。面倒臭かったんだろうね。それとも部下を信じてたのかな 〜。以前、つい最近、俺の担当してた奴が「給料以上の仕事はしないよ」と公言してたけど、酒飲んでる暇があったらそれくら いのコトしても罰当たんねーだろ。「おいっここにはんこ無いぞ。どうしたんだ」って聞くだけのことだぜ。因みにコイツは今 は某アニメ誌の編集長。管理者不在のシステムは当然、ジュニアDCの試し刷りのため、数枚の原稿が出ていったきりになって いることに気付かなかった。いやA川が原稿が持ち出したという時のはんこすらない。出納帳はそこだけ一行真っ白だ。はは は、貧乏してたから、はんこも買えなかったのかね。しかしもっと腹だたしいのは、その後続けて、はんこを押してる他の編集者だ。 特に当時の書籍部のライ担当の奴だ。もう名前も忘れたよ。自分がはんこ押してる上の行に、明らかな空白があるのに、それを 見逃したか、見て見ぬ振りしてるのだ。自分の管轄じゃないからいいだろうと思ったのだろうが違うだろ!出した時に、はんこ がないのは明らかに規則違反だ。どうしてその時に追求しないのか。会社全体で原稿を管理してくれよ。もう二度と前回のよう なことはいたしませんとの反省が全然ねぇよ。先に書いた職業意識の大いなる欠如って奴だね。ほんとにもう..(怒)

ついこの間、新人賞のパーティで社長以下、色んな連中が謝罪に来て、次こそはと、システムの話をする。もういい。原稿抱い て、一緒に輪転機の中を回ってくるぐらいのコトしなくちゃ、メディアワークスじゃ原稿の管理は無理だよ。取り合えず、自己 防衛のため、全原稿を引き上げることにした。毎月の原稿も直ぐさま、返却させることに。印刷所にはデータで渡して貰おう。 最もここはそのデーターでさえ紛失するような気がするが..

こーいう馬鹿者共どう教育すればいいのか。一つは重い罪を被せることだな。しかも連座制にしてね。もう一つは恥をかかす ことだと思う。アメリカの刑務所で敢えて今、鎖で足を繋いで、道端の清掃作業をさせるのは、恥による刑罰なんだって。 俺もそれはいいことだと思ってるし、とんでもないミスした編集には頭を丸めて貰ってる。と言うわけで今回は社長以下、その 訳のわからん穴だらけのシステムを作った連中と、当時の編集部全員、及びその上司は全員、丸刈りだ!!

はいはいはい、もうここらでこの話は止めときますか。後は会社としての関係者の処分待ちと賠償問題だけだしな。

では、お待ちかね、ライの103話目の製作日記だ。今回は戦闘らしい戦闘がないので楽..と、思いきや戦艦が出ないとその分 キャラが多くて大変なのだ。アシスタントに絶対に絵を描かさない俺としては、キャラが多く出れば出るほどあの厄介な模様を描 かなきゃいけないのでとてもつらい。一度、アシストに練習させたんだけど出来より仕上がるスピードがね..それに一々指定す るのも面倒で..

ライと羅候の決戦が近づいてきた。いざ戦いが始まるとどうしても戦い自体に話が集中してしまうので、そうなる前にサイドスト ーリーを進めておかないといけないし、伏線も張っておかないといけない。現在、斉王都、西羌、五丈軍団、英真、姜子昌サイド など複数でしかも同時進行で話が進んでいるのだ。限られたページ数でそれらを進めて行かないといけない。勿論、重要な話には 多くのページを割かなきゃいけないのだ。月刊誌は年に12回しかないんだよな、当たり前だが..コレをなおざりにすると後で とても困ったことになる。サイドストーリーは全てメインストーリーである雷、羅候の戦いに絡んでくるのだから。肝心の所で 「しまった。伏線張るの忘れた。」ってことにならんようにせんと..

今回の冒頭シーンは神楽だ。そう、彼女の恋の行方も、飛竜と姜子昌の運命と関わって結構、重要なサイドストーリーだ。ライの 世界では、あんまり色だ、恋だのの浮いた話がない。GAOの読者はそっちの方を期待しているようなんだけどね。最初は早 めに生き残りの象と神楽を早めに再開させて、それと絡めて項武との仲を進展させようと思ってたんだけど、餃子の話にそれ取ら れちゃったもんな。けど、象は久しぶりに描いたな。昔、「アリババロード」って作品で初めて象を描いたんだけど、その時は図 鑑ぐらいしか資料が無くて、出来の悪い象しか描けなかったんだけど、前回、六紋海の戦いで白象戦車隊を描く時に池袋のアニマ ルグッズの店で買ってきた25センチぐらいの象のフィギアが、今回も役に立つ。買っといて良かった。何だか戦いが無い時の 象の顔にはやたら表情が付いてしまったが、ま、いいだろう。象と抱き合って再開を喜ぶ神楽には我ながら笑えるな。

続いて、一部に何故かファンがいる、中年同士の縁側での語らい(笑)ここで一つ残念なことが。いやコレは仕方ないことなんだが、漫画の 中での年の取り方だ。雷は初登場で17才、現在、27〜29ぐらいの設定にしている。つまり10年ぐらいしか経っていないの だ。本来ならこういうシーンではホントに年食った二人が語り合えば、雰囲気が出るのだが、この二人、まだ50代なんだよね。 一寸貫禄不足というか、まだあんまし老けてないんだよな。大河ドラマなんかはその主人公の一生を描くので、周りの脇キャラも 一緒に年食っていって、「爺!」とか言って老臣を看取るっていうシーンがあるんだが、ライでは一寸なぁ。それこそ雷が皇帝に なって死ぬまでを描けばの話なら別だけど、一応、雷の皇帝戴冠式で終わることになっているので、そういうシーンは拝めないなぁ。 それでも、よく見ると三楽斎と孟閣、意図的に老けさせてるの分かる?目尻のしわとか..頭に白いの増やしたかったんだけど、 何だかハイライトと区別付かないんで押さておくことにした。しかしこの二人、以前はいがみ合ってたんだよな。と言うか孟閣の 方が三楽斎を嫌ってたのだ。軽々しく主君を代えるなとか言ってさ。三楽斎にしてみたら良禽は良木を選ぶという諺通りに主人を 捜してただけなんだけどね。こういう時代、主人が部下を選ぶけど、部下も主人を選ぶって事なのだ。それなのに俺が敢えて孟閣 に三楽斎に対してああいう態度を最初の方に取らせてたかと言うと、あるストーリーを考えてたからなのだ。参考にしたのは大河 ドラマの徳川家康。彼の家臣の中に二人の股肱の臣ってのがいて、一人が石川数正、もう一人が酒井忠次。この二人はまさに家康 初期の頃からの宿老だったんだけど、数正の方が豊臣秀吉の調略に乗って、大阪型に寝返ってしまう..てのが歴史上での話なん だが、ドラマの方では分裂した家臣団をまとめ上げるために、宿老の一人が敵側に寝返るいう危機状態を作るという形にしていた。 その策謀は数正と忠次の二人だけしか知らないと..コレをライでやりたかったのだ。雷が子供かわいさに後宮から出てこず、政 事を省みなくなるのを諫めるために、三楽斎が孟閣に謀って、出奔するという感じでね。勿論、三楽斎はもう戻ってこないし、それ を事実に見せかけるために彼の遍歴が役に立つ。この話やれば自分で言うのも何だけど、絶対に面白くなってたと思う。じゃあ、 どうしてやめにしたか、それは三楽斎というキャラを失うのが辛くてさ。だって唯一の能吏派重臣で、師真等、参謀達と違うでしょ。 しかも、アニメの演技見てたらなんか惚れ直しちゃってさ。あ、アニメでは死んじゃったけど、当初、俺の作った参考用のストー リーではあの戦いでは死ななかったんだよ。だって変じゃん。文官の三楽斎が戦艦に乗って戦い、孟閣が城を守るなんて..あの アニメの監督、そういう基本的な物が全然出来てないんだから..話を戻しましょう。と言うわけで三楽斎というキャラが惜しく て最初の企画はボツにした。今考えるとやっぱり、一寸甘かったかな。話の面白さを優先すべきだったと思うな。こういうシーン を考えていると、時々歴史の非常さに気付く。「こんな凄い奴が..」って人物が30才ぐらいで病死したり、事故で死んだりす る。もう少し生きてたら歴史も変わっただろうと思う時もしばしばだ。しかし、歴史は書き換えようがない。この人物に相応しく ないと言ってもどうにもならない。けど、漫画じゃそうもいかないのだ。どうしても描いてる作者の思い入れや感情が入ってしま いストーリーをねじ曲げてしまう。どうしても格好良くしちゃうからな。けど、それに流されちゃいい話も作れないし..長くや ってるのも痛し痒しってとこか。孟閣が以前三楽斎にぶつけた「主君を代えるな」ってセリフは活かそうと思ってる。いい時に効 かしたいなっと。あ、どうでもいいけど家康の家臣団は凄いよ。天才信長、成り上がり者の秀吉と違い、ホント粒が揃ってる。こ うでなきゃ300年の長期政権は出来まへんわ。ライも結構、そこら辺からネタ拾ってるのだ。だって、武党派から経済官僚、そ して忍者軍団の総帥と、枚挙に暇がない位なんだから。

この後久しぶりに後宮の女達が出てきますね。何だかみんな仲良しなんだけど、こういう所ももっとギスギスした関係の方が戦国 ぽかったかなぁ。麗羅は増長して紫紋を追い出そうとしたり、梨扇に雷がお手付きしたことがばれちゃって気まずい関係になった りと、絶対権力者の後宮なんだからもっとドロドロしても良かったかなぁ。コレも紫紋を不幸にしたくないなっという親心のせいだ。 う〜ん、甘いなぁ、俺って。まだまだだわ。

アシスタント入れて二日目で、竹橋の科学技術館でやってる、オモチャやフィギアのフリーマーケットに行く。最近は〆切だろう がなんだろうがホイホイと行ってしまう。編集がこれ読んだら卒倒するだろうな。けっこう色んな物があったのでホクホク顔で帰 ってくる。ただしアシストのモリーンはその間仕事場に残ってグーグーと高いびきだった。ホンマよう寝る奴だ。

なぜかライ本文をやってる最中に、単行本19巻のカバーを描くことになってしまう。佐藤さん、こーいうスケジュールなら早く 言ってくれよ〜。こんなスケジュールになるんだったら、一月発売を延ばすか何とかしたのに〜。仕方なく一日だけアシストを帰 すことにした。うちは作家本人の仕事が止まってしまうとアシストの仕事は全然ないのだ。19巻のカバーはホント久方ぶりに、 いや初めてかな、女性キャラオンリーだ。正宗と狼刃は置いといて..ここだけの話、レイアウトを某イベントのカタログの某カ ットを参考にしたのだが、当日会場でそれが同じGAOの作家と分かって焦る。まぁ、わからんだろう。上がってきたモンは全然 違うモンになったし。

この頃から何となく腰に違和感が..何となく筋が延びたような感触だ。取り合えず、エアーサロンパス吹き付けてごまかす。何 度も、ぎっくり腰やってるから一寸不安だな。こわごわ仕事を再開したため、ペースが落ちていく。まぁ、コレはいつものことだ が..

お次は秦宮括の反逆の話だ。やっぱ惜しいキャラだが彼には雷の敵に回ってもらおう。どうも、雷陣営の中では置き場に困るキャ ラだし..彼はやっぱり雷や項武と刃を交わして初めて光るキャラだと思うしね。ほら、彼のモデルになった三国志の馬超も、劉 備陣営に行ったらさっぱりじゃない。秦宮括も同じだと思うな。でかい図体で腕っ節も強い男だけどやっぱりというか、案の定、 頭の方はさっぱりのようで、しかも優柔不断ときた。彼にはこういう運命が相応しい

ようやく雷が出てきたぞ。けど〆切もやばいときた。そのうえ、本格的に腰が..椅子を前に寄せるとピリッとくる。まだ、決定 的なのはやってきてないが怖いな。病院に行けばいいんだけど、面倒くさいのでここは一つ、己の身体の治癒力に賭けることにす る。マジでここで一日でも寝込んだりしたら、ライは落っこちてしまうだろう。こんな事もあろうかと思って、冷凍庫の中に大量 の氷とアイスノンを入れている。アイスノンをパンツの中に押し込んでベルトで押さえるようにして患部を冷やす。不細工のよう だがコレが一番効くのだ。とにかくこの治療のお陰でこれ以上の悪化は防げているようだ。ライが紫紋のことを口にした瞬間稲妻 が..いかにも、まずいことがありそうだぞ。こういう時アニメとかだと格好いいんだけどな。

最後は飛竜と姜子昌の再開のシーン。このシーンを全体のストーリーの流れの中の何処に入れるか迷ったが、決戦が近づいてきた 今、ここしかないだろう。再会を劇的にするため前のシーンから引き続いて雨を降らす。しかし、俺、雨を描くってのは久しぶり じゃないかな。骸羅がクーデターを起こす時とジャムカの冒頭の話以来のような気がするな。以外と雨を描くのって、面倒くさい し、上手いこと表現できない。でも、雨で煙ってくれると背景描かなくってすむからそういう意味じゃ好きだな。

最後になったけど、ここでも散々書かれていた担当編集の佐藤氏は解任されちまったぞ。ちょうど一年ぐらいかな。俺の担当やっ てたの。本人もけっこう、ホッとしてるんだろう。写植に誤字が多かったし、軍事用語知らないし、電話の対応が悪くてうちのア シストには不評だったな。年賀状ではライを無事終わらせて、新しい作品を立ち上げたいと豪語していたが、よもやの一年で解任 だ。先のA川以来、俺の担当は短命だ。わずか3ヶ月ってのもいたな。長い奴で一年半か。もたんものだわ。

できあがってきたGAOを見てみると、オイオイなんだよ、落としまくってるじゃねーの。先月号も休載さんが二人いたしな。人 のページ数減らすとか言ってるんならこーいう奴を切っちゃえよ



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