2000 GAO7月号
ライ 第121話


あ〜あ、とうとう制作日記が単行本に追い抜かれてしまったな。毎月一本書くのがこんなに大変とは...イヤ、ぼやいても仕方ない、 コミックスに抜かれたと言うことは、半年以上ずれたと言うことで、間もなく最終回を迎えるというのに、コレでは終わってからも半 年間むなしく制作日記を書き続けなくてはいけない計算になってしまうもんな。とにかく、なんとか速度を倍にして、書き続けるしか ないな。

前回は姜子昌の最後の秘策も空振りで、雷は崩壊する大王里から脱出に成功、逆に姜子昌は右腕の蹄庖を失うという有様で、本当に何 もかも無くし、身一つで落ち延びる形となった。さて、六紋海と未参加ではあるが北京沖での敗戦後、姜子昌をどう扱うかと言うこと に当たって、色々と考えてみた。勿論師真の最大のライバルでもあるわけなんで、その戦いぶりには読者の注目もあるわけだし、物語 の流れから見ても、姜子昌最後の戦いと言うべきモノを繰り広げなくてはいけない。しかしどうするべきなのか。どのような策で戦う のか?艦隊戦の極致でもある、六紋海の戦いで、破れ、六紋海で、師真が駆使した天文地形を利用した戦いを大王里の月落としで実行 するもそれもかわされる、後何が残っているのか?日本的に言うなら特攻であろう。自分の身を犠牲にして、敵諸共...!宇宙戦艦 ヤマトで、ヤマトに敗れ去ったドメルが自爆したように..刀折れ矢尽きた戦士に相応しい死でもあるし、読者もそれを待ってるとい う感じがする。だが、自爆という形に持って行くにしても、それ相応の流れを作って行かなくてはならない。宇宙空間を進撃する旗艦 金剛に座乗した、雷を倒さなくてはいけないのだ。自爆するにしても、かなりの苦労をしなくては近づくことも出来ないだろう、例え、 それが可能であっても、その為に小細工までしてやるのは何か姜子昌という男の戦い方としては相応しくなく、又、作品の流れとして もうっとーしいだけになるだろう。ここはスムーズに事を運びたい。

もう一つ、問題がある。飛竜の存在だ。彼女は雷に対して、復讐の機会を狙っていたのだ。彼女が、姜子昌の許に落ち延びてきた時点 で、私の頭の中には、彼女単独での雷暗殺のプロットがあった。だが、彼女も又雷に近づくことが難しいはずだ、それで、姜子昌の首 を持っていって、雷に面会を求めるという形を考え、夜中、姜子昌の首に刃を翳すまでさせたのだ。あの時、姜子昌があっさり首を 渡すと言うことも少し考えていたが、もう少し、彼が絶望の中で、首を飛竜に託すが良いだろうと言うことと、同時に月落としをやっ てみようと言う別の考えもあったので、先送りにした経緯があった。つまり、飛竜の雷暗殺というプロットと姜子昌の月落としのプロ ットが同時に存在し、結局は姜子昌にまず華を持たせて、かつ、その死を受けて、飛竜が雷の暗殺画策する形に落ち着いたのだ。だが 、この時点では姜子昌は先の自爆云々の形もあったので、姜子昌の首を実際に持っていくということは考えてはいなかった。要は、姜 子昌の最終戦と飛竜の復讐戦、そして、二人の常人には一寸わかりにくいような愛憎劇を絡ませようとしたのだった。だがそうはいっ てもこの二人、文字通りわかりにくい関係である。愛し合っている(た?)関係でもあり、互いの主君が違い、それ故戦場では憎みあ い、互いの夢半ばで雷という共通の敵が現れた二人である。又、性格は二人ともややこしく、愛していても、素直になれないような感 情の持ち主である、これがもっと熱烈な形の恋人同士なら、もっと簡単に事を運べたが、そんな竹を割るような性格なら兎も角、描き 手にセリフ一つ一つを考えさせる男と女であったから、先の愛憎劇と復讐戦と最終戦を絡ませるのに何とも苦労をしたのだ。何とも上手く くっついてくれないのだ。ギャグの一つでも言える二人なら何とかなったんであろうが、真面目過ぎるというのか、それとも私にそれ を描く才能がないのか、兎に角ギクシャクなのだ。

そうこう言ってる間に、姜子昌は万策尽きる形となった。こうなると、自動的に首を飛竜に託して、雷暗殺を企てるという事になる。 そこで、この暗殺劇のモデルになった、中国戦国時代末期の始皇帝暗殺未遂事件の話を書いておこう。

時は秦による初の中国統一の時代、秦以外の6国はもはや為すすべもなく、秦による併合を順番に待つだけの存在になってしまった 。北方の弱小国「燕」は隣の大国「趙」が秦に滅ばされ、その侵攻の矢面に立つことになってしまう。到底軍事力では太刀打ちできな い燕の王室は太子丹を中心に荊軻と言う人物に始皇帝の暗殺を託すことになる。だが、始皇帝に近づくことは容易ではない。そこで、 当時燕に亡命していた樊於期という将軍の首を持参することになった。この将軍は始皇帝の怒りを買い逃げてきた男で、その首には莫大 な賞金がかかっていた。その首と燕の領地の地図を合わせて提出することで、始皇帝の警戒を解こうと言う策である。荊軻はそのこと を樊於期に説明して、首が欲しいと頼む。樊於期は喜んで、首を自ら刎ね、荊軻はその首を持参して始皇帝暗殺の旅に出るという話だ。 史実関係はうやむやな話だが、まぁ、こー言う話が存在したのだ。勿論この暗殺は惜しいところで失敗し、燕は滅ぼされ、秦による天 下統一は又一歩進むことになったのだが..この話が今回の姜子昌の話に元になったエピソードである。

ところで、飛竜は姜子昌の許での短い滞在の後何処に行っていたんだろうか?姜子昌が自分の首の替わりに渡した、陣立て図を胸に、 雷の後を追ったと思われる。だが相手は進撃中の軍勢の中にいる男だ、色々船を乗り継いだとしてもなかなか追いつける物でもない。 そうこうしている間に北京沖での会戦は五丈軍の大勝利となり姜子昌に陣立て図は何の意味も成さなくてなってしまった。飛竜は困 っただろう。雷は大王里に落ち着いている。しかし自分にはその彼に近づく手立てもない。今更姜子昌の首を取りに帰るわけにはい かないし..と悶々とした日々を送ったことであろう。本当は月落としをする前に姜子昌の手の者に飛竜を大王里から連れ出すとい うシーンを入れるつもりであったが、一寸陳腐なので、省略、連れてこられたという事実のみ、飛竜の口から語らせればいいだろう と考えた。

こうして、姜子昌の最後について考えがまとまったところで、何処で彼は飛竜に首を渡すかということが残った。最初の案では、姜 子昌の領地にある古寺であった。何で寺かというと姜子昌がそこにある毘沙門天のような南天の守り神に、打倒雷の願をかけるとい う構想であった。しかし、今更宗教っぽくしても仕方なく、又南天の武将の中では合理的な精神の持ち主であろう姜子昌が願掛けも ないだろうと言うことでこの案はボツ。次の案、これが決定稿であったが、飛竜と共に学び合った学舎の師の墓の前という設定が出 てきた。共に共通の師の許で学んだと言うことは時々、二人の会話の中で出てくるし、その師の前で、夢半ばの二人が落ち合うのも 何か皮肉っぽくて良いのかも知れない。この学舎で1.2位を争う才能の持ち主であった彼らが、このような姿になって、二人して 顔合わせるなんて...てな感じである。ちょこっと過去の話に浸るって事も出来るしね。

次はいかに、首を刎ねると言うことだった。最初、古寺を場所に選んでいた時は、飛竜が到着した時には、仏像の前にすでに姜子昌 の首が置いてあると言うシーンを考えた。勿論姜子昌が自ら首を刎ね、だれかが(この頃蹄庖を殺すかどうか決定していなかったの で、恐らく彼が介錯し、飛竜に首を託す仲介者となる予定だった。その後蹄庖は追い腹を切る。)その首を洗い用意してあるという 考えである。もう一つはこれも古寺のの設定だが、一言二言会話を交わした後に姜子昌がやおらいきなり自分の首を刎ねるという形 である。でも、コレも何だかシュールであろう。結局この二つの案はボツになり、姜子昌が飛竜に首を切って貰うという形とした。 残酷のようだが、飛竜を説得する間に、自らの打倒雷の凄まじい執念を伝えることも出来るし、二人の複雑な愛もコレで清算できる って感じである。

さて、実際に作画作業に入って、まずは、恩師の墓の前である。相変わらず、飛竜はブーたれ状態である。過去は万事こんな感じで あったろう。やにわに剣を抜き俺の首を取れと言いだした姜子昌。ドンドンと勝手に話を進めていく。飛竜にとっては寝耳に水の話 ではあったので、段々そー言う姜子昌の態度に腹が立ちポカリとやってしまう。この「勝手に」と言うところがミソで、コレが姜子 昌と飛竜との諍いの元になっているのだ。姜子昌という男、どうも女性に対してはこんな態度を取る男らしい。これはあくまでも裏 話であるが、姜子昌が16の時、師の門を叩き、そこで、二年間を過ごして。飛と出会い、結ばれる。だが、彼はこれまた独断で 、羅候の元に向かうのだ。勿論南天名家の出で、王室にも近く、やがては皇太子付き武官になることは生まれた時から決まってた様 な男ではあるが、飛竜としては、これまた寝耳に水で、又、姜子昌が、飛竜に気持ちも聞かずに一緒について来てくれると決めつけ ていたことから、二人の仲は壊れてしまうのだった。彼女は反発するかのように、彼女なりの主人を見つけ、二人は袂を分かつこと になる。ここら辺のエピソードはこの夏発売の同人誌に詳しくあるので、楽しみにして欲しい。

しかし、時間的なモノもあるので、ここで、首を取れ、嫌だを延々と繰り広げるわけにはいかない。姜子昌の言葉に納得できない飛 竜ではあるが、ここは外的要因によって、彼女にも決断して貰おう。  ..で、五丈捜索隊の登場である。時間が無く、危険が迫 っている。このままでは、自分も姜子昌も虜になって、竜王の元に送られるだろう。それだけは避けないと、..こうして、飛竜は 決意し、姜子昌の首を刎ねることになる。回想シーンを入れたのは姜子昌が為すすべもなくこの手段を選んだのではなく、あくまで も積極的に竜王を倒すという信念で、首を託すのだと言うことを示す演出だ、あんまし上手く表現出来なかったが。コミックス時に 師真の「姜子昌、破れたり!」のページを書き足したのは、その演出を少しは補おうとしたためだ。

静かだが闘志溢れた姜子昌の表情、自分が愛した男の首を刎ねなくてはいけない飛竜の苦悶に満ちた表情、そして、時折稲妻も光る 暗転した空、迫り来る五丈捜索隊、その中の犬の鳴き声、ここらを上手く演出して、首が落ちるクライマックスまで盛り上げたかっ たが、なかなか思った様にはいかない。結局首の落ちた瞬間、雷が落ちるという、大昔から使い尽くされたことをやってしまった。 う〜ん、一寸悔いが残るなぁ。こー言うのはあくまでもタイミングが大切で、コマの流れが一定していては間が延びてしまうもんだ。 昔、大河ドラマで西郷隆盛があったが、そのクライマックスで、西郷が別府新介によって首を刎ねられるシーンで、瞬間に場桜島の 噴火(桜島かどうかは怪しいが)が挿入されていた。アレはアレで良くできたと思っているが、もし、噴火のタイミングが0.1秒 でも遅れたら間抜けなシーンになっていただろう。映像と違い、漫画はコマを読み進んでいくモノだ。読者にとって、その瞬間の落 雷は、読者の読むタイミングで入れることになる。となると、描き手としては「はい、ここで直ぐに次のコマの落雷へ!」と読者を 導かなくてはいけないのだ。それが出来なかった様な気がする。まぁ、これは読者の反応を見てみるしかないのだが..

落ちた首を抱いて泣くシーンはそれなりに上手くできた様な気がするがいかがなもんだろう。こうして、飛竜はその首を持ち、雷の 許に旅立つことになる。

最後に言っておきたいのは、姜子昌はけして、絶望でもなく、又多くの部下を無くしたからでもなく、ましてや何も知らない大王里の 人間6千万人を焼き殺しての懺悔で、首を打たれたのではない。彼は最も確実に竜王を倒せる手段として、その首を飛竜に託したのだ。 飛竜は武芸も秀でてるし、度胸も据わっている。彼が最後の武器となる、自分の首を託すのに、これほど適した人間はいなかったろう。 最も強力な武器を確実に扱ってくれる戦士として、彼は飛竜を選んだわけだ。コレが彼らの師と言われる人物の教えの末路だとした ら、凄く悲しいモノではあるが...

最後に南天軍の中心人物の一人である姜子昌というキャラクターについて、書いておきたい。 雷に師真あれば、羅候に姜子昌有り と言われる男で、雷のライバル羅候が登場した時点で、師真に匹敵する軍師を付けようと言うことで、作られたキャラクターだ。 雷が、何処の馬の骨か分からない連中を集めて部下にしていくのとは対照的に、羅候の毛並みの良さを表すかの様に、姜子昌とは 竹馬の友という設定であった。逆を言えば、師真は自ら雷の許に赴いたわけだが、姜子昌は、羅候との劇的な出会いというわけでも なく、軍人として、太子であった羅候の守り役に付けと命じられて羅候の参謀となったわけである。勿論そんなことが二人の関係に どうとか言うモノではないのだが、まぁ、雷と羅候の出自の違いというわけだ。 さて、軍師同士のライバルと言えば、かの有名な三国志の中の諸葛亮と周瑜がまず筆頭にあげられよう。勿論私もコレを参考にした。 師真は在野の賢人で、諸葛亮と同じく晴耕雨読(師真の場合酒池肉林)していたのを雷に召し出されたわけである。勿論生粋の文官 であり、これも諸葛亮と同じであり、又、軍事、行政ともに最高責任者であるのも同じである。ついでに羽扇を指揮棒代わりにして いるのもね。それに対する姜子昌は、三国志の呉の国の軍師であり、大都督でもあった周瑜がモデルだ。周瑜は時の主君孫策と義兄 弟の仲であり、それこそ、幼なじみとは言えないが、若い頃から知ってる仲である。諸葛亮とは違い生粋の軍人であり、国政に関し てはあくまでも軍事畑からの参入に止めてはいる。それでも多くの国家的決断に際して、彼の意見が大きく国論を左右したことは間 違いない。三国志演義では諸葛亮にいい様に弄ばれる、損な役回りだが、実際は外交軍事に辣腕を発揮した大人物で、彼の死後は 呉という国は積極性を失ってしまう始末だ。この周瑜がモデルになったわけなので、姜子昌は完全な軍人として描いた。確かに知識 力は上は天文から、下は医術や占いまでこなしてしまう万能の天才である師真には及ばなかったかも知れないが、叩き上げの軍人と してその軍事センスと言うところは実戦の経験の少ない師真より遙かに高かったわけだ。天才ではなく、秀才であったのだろう。 その二人が最初で最後に激突したのが六紋海の戦いで、正に、万能の天才と、センス抜群の軍人との戦いであったのだ。しかし、秀 才の辛いところは、頭が良いだけに秀才と天才の違いを感じてしまうところだろう。秀才はどうやっても天才にはなれないモノだ。 姜子昌は師真の才能に、半ば呆れ、又感心し、羨望の眼差しを送ると共に、嫉妬心もあったのだろう。そして共に若い主君を支える 一の家臣と言う共通項..自分の敗北は主君の恥となると言う立場も同じである。戦いは最終的には師真の大勝利となった。しかし 戦いというのはどんなに先に色々仕込んでいても、いざ、戦いの口火を切ったら、戦いの帰趨は五分五分である。それを六部四部に するため彼ら軍師は苦労するのであって、四度負けても六度勝てば大勝利である。又、船を半数失おうとも敵艦を全て打ち取れば、 コレも又大勝利であろう。つまり、二人の才能は紙一重であったわけだ。恐らく平時なら姜子昌は師真から教えを受けたかも知れ ないし、又逆に師真も英邁な軍人である姜子昌から、幾多の戦いの話を聞き、それを糧にしただろう。

姜子昌のを語るのに捨て置けないのが色恋沙汰だ。雷と紫紋・麗羅は別格として(羅候も)、女がいる話があったのは。後半の林 や項武は兎も角、彼ぐらいではないのだろうか?最初に姜子昌というキャラクターを考えた時、彼は正宗に恋というか、憧れを 感じている男だった。同じ時代に生きる男として、異姓ではあるが、正宗の行き方は彼に1つの指針を示していたのかも知れない。 しかし幾ら憧れでも一国の軍師である彼が敵国の主君に恋したのでは羅候の立場がないだろう。そこで、丁度正宗に付いていた飛 竜というキャラに脚光が当たり、同じ参謀で切れる同士が恋人関係なら面白かろうと、考え出したカップルである。しかし、立 場を越え、国を越えての大恋愛というのは馴染まないので、過去、付き合っていて、今は敵と味方に分かれてしまったという一寸 ベタベタな関係にしてみた。コレに集中してみれば、又面白いモノが描けたかも知れないが、話はあくまでも、五丈中心、彼らの その関係が動き出すのも、正宗が死んでからになってしまい、実質ここ数回に集約されてしまったのが惜しまれるが、全体の分量 を考えると、こんなモノだろう。

性格付けや、キャラ関係以上に難しかったのはどんな男にするかという、キャラデザインだ。頭の中ではやんちゃな羅候の目付 役で、お兄さんみたいな男、スポーツ界系で、憧れの主将って感じにしたかった。ただ、私にとって、こー言うキャラクターは 絵的にも初めてだ。特に年齢的にも中途半端なのだ。一番最初にイメージとして上がったのは「マクロス」のフォッカー少佐。 立場的にも、羅候との上下関係の違いはあっても。似たものであっただろう。声のイメージもシリアス声の神谷明って感じでイ メージに合う。そのフオッカー少佐のイメージに、某同人誌に一カットだけラフが描いてあった剣士か何かの男をくっつけて完 成したのが姜子昌の絵柄だった。特徴あるもみ上げは何となく付けてみた。羅候が金ぴか極彩色的キャラデザだったので、全体 的に渋めで、エリート軍人の感じが出せる様にしたが、何回もマイナーチェンジした所を見ると、なかなかイメージが固まらな かったみたいだ。どうしても登場回数の制限があって、なかなかキャラ的に熟成出来なかったのが真相だ。

因みにアニメの姜子昌が金髪というか、白髪みたいになったのは、何故か監督が、髪の毛が黒いと三楽斎との区別が付かないと ぬかしたからだ。そうかぁ?


ここら辺で、制作日記は一旦終了。今度は又皆さんお楽しみの毒日記の部分である。今回のトラブルは何やら突然有料読者プレ ゼントになったレフグラフの件である。この企画が上がり、私の元に話が来た時は実に漠然としていた。24巻の表紙イラスト を転用してキャラ商品を作ると言うことだった。時々、メディア・ワークスは電撃屋とか言う、期間限定ショップみたいなト コで、この手のキャラ商品を販売していたので、「ああ、いつもの流用イラストのやっつけ商品か」と、気にもしていなかった。 過去にも色々作っていたし、イラストの流用と最初から決まっていたから、こっちとしても何の準備もしていなかったのだ。 それがいよいよ、この商品の広告と応募のお知らせが載るという段階になって、私は担当に聞いてみた。「コレ、なんぼで売る の?」担当はこともなげに「10000円」と言ってくれた。10000円?私は急に焦ってしまった。そんなに高い物を作 る計画だったのか?しかも、流用イラストで!「今までの読者の応援に感謝を表すためです」という編集長の言葉も、何で感 謝を示す商品に流用イラスト、つまりは何回も使い回したイラストを使うんだよと言う私の疑問でその声はかき消されてしま った。私にだって読者への感謝という気持ちは当然ある。ならそれをキャラ商品で示すには何をすればいいか?私流の考えで は、やはり書き下ろしだろう。その為にだけ特別に感謝の気持ちを込めてイラストを新たに描き下ろす、コレが作者としての 責任だと思う。しかも読者はそれを10000円という高値で買うのだ。それに使い回しのイラストとはどー言うことか? 私はここに編集部と作家の考えとのどうしょうもない開きがあると思う。担当、編集長曰く「作家に無理はさせられなか ったから」..実に作家思いの編集部だが、その実は、スケジュールの影響ばかりを心配していただけなのだ。そりゃ、確か に私は描くのは遅い、いつも担当や印刷所を泣かせているに違いない。だがそんな作家にでも鞭打って、頼み込んで、新しいモ ノを描かせるのが編集部ではないのだろうか?企画が立っていたのなら、もっと前からスケジュールの詰めは出来ただろうし、 自分で言うのは何だか、そんな高価なモノになるんなら、私は二つ返事でOK出していたし、例え作家が嫌と言っても「読者 のためにお願いしますよ」と言うのが発注する側の仕事である。初めから何の相談もせずに作家とのトラブルを極力避けて避 けて、楽して実を取る様なことは編集として失格であろう。ここの編集はまずは読者ありきという言葉が欠けている様に思えて 仕方ない。読者には、最初の応募イラストと、その次のイラストが変わっているのに気付いたと思う。その一月の間に色々あっ たのだ。そして結局、イラストは描き下ろして、価格も極力下げるという形になった。「レフグラフは元々高いモノ、限定生産 ならこのくらいはする」と言う主張は、「じゃぁなんで、そんなに高くて使い回しのイラスト使用のモノを、読者に感謝の意味 で売るの?」という声にかき消されるのではないだろうか。

他のトラブルのその後だ。24巻のコピー線が出てしまったことについてだが結局、作家進呈分のみ刷り直しと言うことになる。 本来なら、回収しても良いんだろうけど、そこまでのお金も持ち合わせていないだろうから、こー言う形での決着となった。 作家進呈分は10部だが、さすがに10部なんて数は刷れないから100部ぐらい刷ったんじゃないだろうか?代えて欲しい 人は編集部に問い合わせてね。それにしてもこの刷り直し分は未だに来ない。編集長に言ってもなしのつぶてだ。夏までには来 て欲しいもんだねぇ。

次いで、直後に起きた25巻の表イラストの明度の件。実はこのイラスト印刷段階で、随分暗くなっているのだ。チェックの 段階で、暗かったので、もう一度刷り直したら、更に悪化し、それなら未だ最初の方が良いと言って作者としてGOサインを 出したのだ。しかし現実に店頭に並んだのは最初のより暗いイラストだった。たかが暗さと言うが、キャラの顔が沈んでしま っては商品としても価値が下がるのではないだろうか?何と言ってもキャラの顔が表紙イラストの華。コレが暗ければ、その イラスト全部が陰気になってしまう。何よりも何でチェックの時の指示が守れないのか?もし守れないのなら、何でわざわざ 作家の所にOKをもらいに来て、何回も刷り直すことをするのか?アレは儀式なのか?と言うことになる。取り合えず、24 巻の件もあり、指示が守れない、又は技術的に対応出来ないんなら印刷所を代えてしまうと言うのが一番だ。それを編集長に お願いすると、「そうすると次の巻で上手く行かなかった時、印刷所を代えたからと言うことになりますよ〜」だって。シオ シオ〜...まるで、次は貴方が責任を取れよといわんばかりだ。ハイハイ何とでもしますよ。



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